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賃貸人(貸主・大家さん)の側で相続が発生した場合

 大家さんが亡くなって、相続が発生した場合、その後の賃貸借関係はどのようになるのでしょうか。

 

◆相続人が一人の場合
 まず、相続人が一人しかいない場合には、これは一番単純明快な形で、その一人しかいない相続人が、新しい大家さんになります。
 相続は、包括承継といって、それまでの権利関係(債権と債務)が、そのまま相続人に移ります。ですので、賃貸借関係も、特に変更なく、それまでの契約と同一の内容のまま引き継がれます。

 

 また、当たり前と言えば当たり前ですが、その際に借主の承諾は不要です。人が亡くなって相続が発生することは自然の摂理ですので、法律的にも承諾するとかしないとかの問題にはならないということになっています。

 

◆相続人が複数の場合

 

 相続人が複数の場合には、それなりに複雑な関係になります。

 

 まず、遺産分割が行われた後、相続人の誰か一人が、単独で賃貸の目的物(アパートとか借地とかです)を取得した場合には、原則として貸主(大家さん)としての地位も、その相続人が引継ぎます。目的物の所有権が移った場合と概ね同じです。
 したがって、この場合も比較的法律関係は単純です。

 

 少し別の話になりますが、相続が発生し、遺産分割協議を行う際、賃貸の目的物の不動産をなるべく共有(共同で相続)にしないように話し合いを進めることが多いのは、賃貸借関係を簡明にするため、というとがあります。
 また、遺産分割前の賃料については、各相続人が相続分に応じて分割して取得しますので、原則的には遺産分割協議の対象となりませんが、全員が合意すれば、遺産分割協議の対象とすることもできます。

 

 次に、遺産分割の結果、賃貸の目的物を複数の相続人が共同で相続することがあります。
 この場合は色々とここでは書ききれないような問題がありますのでごく大まかな説明にとどめますが、、貸主の義務(債務)を複数の相続人が不可分に負っていたり、、賃料債権を共有持分の割合に応じて各相続人が分割して持っていたりするような非常に複雑な法律関係となります。

 

 このような場合、貸主としては、事実上の工夫として、賃料を受け取る窓口や修繕の問い合わせ先だけは一本化するなどして対処する他ないように思われます。

 

 最後に、遺産分割協前についてですが、概ね、上の、複数の相続人が相続した場合と同様の法律関係となります。つまり、貸主の義務を相続人全員が不可分に負っていたり、賃料債権を法定相続分に応じて各相続人が取得していたりするという関係で、借主(借りている人)からすると、大家さんが複数になったかのようなとても複雑な状態になります。

 

借主(借りている人)の側で相続が発生した場合

 

 では、借主が亡くなった場合はどうでしょうか。

 

 借主(借りている人)にも、賃借権という権利があります。賃料さえ払えば、契約期間いっぱいまで目的物(アパートとか借地とかです)を借りることができる、という権利です。
 土地の場合は、借地権という言い方をすることがありますが、借地権はそれ自体が売買の対象となるなど、財産的な価値もかなりあるのが通常です。都市部の住宅地では、土地そのものの価格の6〜7割前後が借地権価格とされることが多いですので、借地権の方が残った土地(底地、などといいます)の価格より高くなります。
 また、建物の賃借権は、借地権のように財産的価値は高くないことが多いですが、それでも、例えば自宅などにそのまま住み続けることができるか、といったことは重要なことですので、相続が発生したとたん簡単になくなってしまっては困ります。

 

 上のような事情もあり、賃借権(建物の賃借権と土地の借地権)は、法律的にも当然に相続の対象となる財産とされています。

 

◆遺贈と「相続させる」旨の遺言
 借主の相続に関しては、貸主とは違った角度からの注意が必要です。

 

 相続に関しては、それ自体にかなり多岐にわたる問題点がありますが、その一つに、遺言によって「遺贈」という形で財産を譲る場合と、同じく遺言によって「相続させる」という形で財産を譲る場合があります。

 

 ややこしいので結論だけ書きますと、後者の「相続させる」という形の遺言で相続した人は、そのままその人が新しい借主になります。法律関係はそれまでと同一の関係を引き継ぎます。また、ここが重要なのですが貸主(大家さん)の承諾は不要です。 

 

 これに対し、「遺贈」した場合には、抽象的には亡くなった人(被相続人といいます)が、相続する人に対して賃借権を譲渡するようなイメージになりますので、賃貸人の変更・賃借人の変更についての頁の「借主が変更になる場合の法律関係」に書きましたように、原則として、貸主(大家さん)の承諾が必要になります。

 

 なお、「遺贈」ではなく、遺産分割協議の結果、相続人の一人が賃借権を単独で相続した場合には、相続発生時に遡って相続したことになりますので(民法909条本文)、「相続させる」旨の遺言と同様、特に貸主(大家さん)の承諾はいりません。

 

◆単独相続と共同相続
 また、借主も、賃借権を単独で相続する場合と、共同で相続する場合があります。

 

 単独相続の場合は、特に法律関係に変更はありません。

 

 複数で相続する場合には、少しわかりづらいと思いますが、賃借権を相続した全員が不可分に賃料債務(賃料を支払う義務)を負います。
 どういうことかといいますと、大家さんから相続人の一人に「賃料払ってください」と言われたら、とりあえず、その人が全員の分をまとめて払わなくてはならない、ということです。「自分の相続分は2分の1だから、払う賃料も半分で」ということにはなりません。

 

 他の相続人の分については、いわば立て替えて払った形になりますので、後でその人達にその分を請求することはできます。

 

 

 ・・・以上、駆け足ですが、相続と賃貸借関係について、ご説明いたしました。
 賃貸借関係も相続も、かなり法律関係としては複雑になりやすいものですので、どうしてもご判断に迷われることがございましたら、一度、お近くの法律事務所(当高幡門前法律事務所にお尋ねいただければもちろん光栄ですが・・・)にご相談いただければと思います。

 

 

 

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